会社に入ってほぼ丸3年、ウィンド始めてほぼ2年。
唐突だが26才で結婚した。

早い？その当時はそんなもんだ。
つうか、M先輩のご薫陶を受け、「こんなダメ会社のバカなオンナに」つかまらないよう、せっせと合コン通いをして彼女を捕まえた。
その後、ウィンドの味を覚え、完全に狂っていた俺であるが、そっちのほうはツツガナク事は進行していたのだった。

2月に結婚式を挙げたんだが、前日（一応準備で休み）は西高東低の冬型の気圧配置が決まり大西（西から吹く強風）が吹き、逗子でウェイブ。波打ち際でのた打ち回ったりしたせいか、翌日、式の最中に耳の中が砂でジャリジャリしてたのを憶えている。

いわゆる新婚旅行は３ヵ月遅らせて5月。もちろん行く先はマウイだ。風が吹き始めるまで待ったのだ。
俺の職場の休みは平日から始まる。なんとかやりくりして、目いっぱい10日間の休暇を取った。

羽田発のチャイナエアーでホノルル着。ホノルルはターミナルの中を素通りして国内線のロビーに直行した。この後、何度もハワイに入ったが、毎度マウイに直行で、初めてホノルルちゅうとこに行ったのは、２０年後である。

空港には大学を卒業しても就職せず、そのままマウイに居続けをしているフルヤが迎えに来てくれていた。俺が乗る板も、日本人のプロがフルヤに預けていった板を借りる手はずになっていた。
もう20年近く前のことだ。カフルイ空港もバゲッジクレイムなんて洒落たものはなく、壁の向こうからカウンターに荷物が押し出されてくるだけ。今のロンボクとまったく一緒だな。

空港のカウンターでレンタカーを借り、まずはフルヤとオガちゃんがシェアしているホキパのアパートを訪れ板を借りた。
2階建てのアパートは、隠居した老人ばかりが目に付くオンボロアパートだった。
日当たりの悪い2階の1室を基地に、フルヤとオガちゃんはウェイブ修行に励んでいたのだった。
やっぱし俺には出来ないな、と思ったものだ。

この後のことは、正直その後何回か行ったマウイの記憶と重なってよく憶えていない。
ただあまりコンスタントに風は吹かず、2〜3度初心者も安心のカナハというポイントで胸くらいのに乗ったような気がする。
インサイドの海面がチョッピーで乗りづらかったのと、アウトの風がガスティで苦労したのを憶えている。風向きも逗子とは逆の（海に向かって右から吹く）スタボーサイド。なんとかウォータースタートができる程度の俺がウェイブを楽しめたとは思えない。

しかし初めてのマウイだ。見るもの聞くもの全部が珍しい。
コンドミニアム暮らしも楽しいし、コンドのあった島の南側のキヘイからポイントのあるノースへの道を、両側がいつまでも続くようなさとうきび畑の中をドライブするのはサイコーな気分だ。
そしてその先サトウキビ畑の先には赤茶けた精糖工場が甘ったるい香りのする煙を吐いていた。

まだ人も多くないホキパに行ったり、買物したり、夜にはフルヤやオガちゃんが遊びに来て飯を食っていったり、とあっという間に時間は過ぎる。
風はないが、波のサイズがあがったホキパでサーフィンを見学していると、ひときわスムースなライディングで目を引くサーファーがいた。あがってきたそのサーファーを双眼鏡で見ると、神様ロペスだったりした。

そして、あっというまに堅気のカミサンのとった１週間の休みはもう終わりだ。
じゃぁ気をつけてねぇ、とカフルイ空港まで送って、俺はマウイに残った。当然でしょ。一人で帰れるでしょ。子供じゃないんだから。

そしてなぜか途中から俺のコンドミニアムに転がり込んできたのがM先輩だった。俺のカミさんと入れ替わりに休みを取って、新婚旅行に合流って寸法だ。
どうやら俺だけマウイでウィンドするのが許せなかったらしい。

M先輩の新婚旅行はマウイではなくオアフだったのだ。まだウェイブはやってなかったからカイルアででかめのボードをレンタルしただけだ。
俺だけあの青い海で、真っ白な波にマニューバを描くことを（できねぇっちゅーの）想像すると、悔しくていても立ってもいられなかったのだろう。奥さんをなんとか説得して、マウイに飛んできて、ワシラが借りたコンドミニアムに転がり込んできたのだった。

そして、M先輩の到着と共に風はぴたりと止まった。

風の章その15に続く

これまでの話

その１：ウィンドサーフィンスクール
その2：ウィンド初体験
その３：風を受ける！
その4：おれたちゃウィンドサーファー
その5：死ねる遊び
その6：ファンボードとの邂逅
その7：M先輩結婚す
その8：ファンボード事始め
その9：三角無限地獄
その10：天気図と嘘とファンボード
その11: JUMP !!
その12: ドロップアウト志望
その13: そして波に乗る