パラリパラリと冷たいものが頬に落ちてくる。
真っ暗なテントの中で、目を醒ます。
目を開けても何にも見えないし、シュラフの中に顔を埋める。
埋めるけど、だんだん息苦しくなって顔を出す。
パラリパラリ。
また、シュラフに顔を引っ込め寝返りをうつ。 ウツラウツラとしていたが、とうとう勢いつけてシュラフから這い出る。
ヘッドランプを手探りで見つけ、ライトを点けるとテントの中は吐いた息が氷つき真っ白。
こいつらがさっきからパラリと顔に落ちてきたんだね。
うー、やっぱシングルウォールのテントはワタクシのような軟弱モノには辛いっす。

そのまま、ゴソゴソとテントから這い出して、空を仰げば絶対都会じゃ見れない星空が広がっているのであった。
先週来てれば獅子座流星群見れたかもしれんのになぁ、なぞと思いつつ用をたしてまたテントに戻る。
「熟睡できないんだよねー」とか言ってた哲はスースー寝息をたて続けてるし。

引続き起きてんだか寝てるんだかわからない時間が過ぎ、やっとテントの外がほの明るくなってきた。

近くの学生山岳部の連中が早立ちする準備の声が聞こえ始め、ワタクシももうテントは飽きた、シュラフカバーの中に入れた水を携え、外に出てストーブに火をつける。
熱いスープを作って体を暖めるが、すぐに冷気が体を冷やすのであった。
なんてことやってるうちに回りもゴソゴソ起き出して、朝飯食ってさぁ今日はどこ攻めますか。

今日も快晴だし、風もほとんどなし。 どうやら強力ハイクチームとテツは、奴等がこの春に攻めたというシュートを狙っ ているらしい。

んー、あそこですか。
ま、確かに室堂付近の斜面は既にギタギタ。
この雪の状態であれば、アプローチも比較的楽かもしれんし雪崩のリスクも低いけど、あそこはかなりの斜度でしょ。
「イヤ、見た目ほど斜度ないから大丈夫」
とのテツの言葉に、じゃとりあえずついてくか、と。
なんとなくダラダラ、バラバラキャンプサイトを出発。

先行して川を渡ったZZはまず尾根に取付いて稜線からアプローチすることにする。
高度を上げるとともにやっと日も当たりはじめ、体も暖まってきた。
こっちのルートをとったのはZZに石橋君と高橋君。名古屋チームの中にあっては「普通」の２人である。

「強力」チームは別なアプローチを取っているのか、追いついてこない。 直接詰めるつもりなのであろう、普通だったらあっという間に抜かれるはずなんだけど。
どうやらワシラのルートが一番効率的だったららしく、稜線からのアップダウンを繰り返し、手ごろな斜面で軽くひと滑り。

　ZZ ' trace : photo : ZZ

日が当たってちょっとイマイチかな。

そんなことやってるうちに全員合流し、さていよいよ目指す斜面が近づいてきた。
んー、確かに斜度としてはイケそうであるし、ロックも何とかかわせそうな気はする。

ただですねぇ、登りっ返しが相当きついんではないのかね。
滑る斜面は日が当たってるもんの、登り返しは北斜面で柔らかそう。
ボトム近くからだと多分標高差で５００メートル近くあるでしょう。下手をすると腿ラッセルの可能性もあるじゃん。
確かにハイクパワーの塊のような自転車チームがいるとはいえ、相当キツク、時間もかかることは間違いないであろう。

既に立山入って４日目、かなり疲労も蓄積してるしなぁ。
奴等はまったく登りっ返しのことは気に留める風でもなく、むしろ楽しみにしてるようにも見える。

相当悩んだが、ここは４２歳と１１ヶ月の分別を発揮して、結局、石橋・高橋・ZZの一般人３名は、手前の沢を滑る事にする。
コルから更にピークを目指す連中を送り出した後、弱層チェックで安定度を確認し、我々３名ヘナチョコチームはボウルに飛び込んだ。

rider : Ishibashi / phhoto : zz

うっひょぉ、北面のノートラックの斜面は予想通りのパウダー。
このままボトムまで降りたい誘惑を必死に押さえ、３ターンほどで止まる。 そして予想通りの腿ラッセル。 あー、やっぱボトムまで下りなくてよかったっす。

sequence
rider : Mizutani
photo : ZZ

ヘナチョコチームはそのまま登ったコースを辿って戻ったが、正直、南斜面で雪も悪くてつまらんかったです。
やっとテント場でお茶、今ごろ奴等は苦労してるんだろうな、というところでなんと「男組」(名称変更）のミナサマから連絡があり、あの深い沢を１時間半で登り返したと。
マジっすか、と驚くのはまだ早く、村瀬・市川のクソ馬力コンビは 「まだ滑り足りん」ともう一本さらに登っていったと。
んー、ちょっと声が出ませんわ。 参りました、スンマセン。

さて、翌日は連休最終日。 堅気のミナサマは下界に降り、ZZは引き続き残る予定であるわけであるが、ワタクシのココロは揺れ動きはじめていた。