ここから見る限り、うっすらとしたトレースが見えるのは登りと一緒。
しかし、所々に新しい踏み跡がついておる。
これってひょっとしてラッキー？

腹ごしらえを済まし、トネ君がトレースをたどりながら歩きはじめる。
「こりゃ、カモシカの踏み跡ですね」
確かに子供が歩いたくらいのが、うっすら残った人間のトレースを辿っておる。
どうやらカモシカでもトレース使った方が、ラクチンらしい。
深さはやっぱり膝～モモパウサイズ。

下は積もってないとのトネ君の予測はやっぱり希望的観測であったことが判明。
ま、登りじゃないぶんだけ楽なのは確かであるからして、ここは発想の転換が必要であろう。

そーだ、これはスノーシューハイクだ。
オマケのオプショナルツァーなのだ。
貸切りな上にオプショナルツァーまで堪能できるとは、なんとお得なことであろうか。 それも、モモパウなんてめったに味わえませんぜ。
あー楽しいな。うらやましーだろザマーミロ。

自分自身にマインドコントロールをかけつつ、ラッセルは続く。
「まぁ、4時前には駐車場につけると思いますよ」
というトネ君の予想であるが、それって3時間は歩くってことなのね。

とりあえず林道まで登ってクロカンボーダーで帰るのだが、その登りの途中のことである。
「あれ、ホラ、ZZさん」
おっ、こないだもお見かけした地元のカモシカ君である。
それも結構近い距離からこっちを見ておる。
さっきのトレースはこのローカルがつけたものであろうか。
ひょっとして、
「勝手にトレース盗んでんじゃねーよ」
とガンを飛ばされておるのであろうか。
しかし無表情なその顔から真意をうかがい知ることはできない。
「いやー、こないだといい、こんな近くではめったに見れないですよ」
マスマスお得である。

林道の取っ付きで、クロカンボーダーを試そうとするが深くてぜんぜん進まないっす。
雪質もなんだか滑らないし、結局諦めてスノーシューに履き替える。
トネ君はひょっとしたらスキーの方が楽なのかもしれんが、付き合ってくれるのだった。

そのうち、林道は所々でデブリで埋まりはじめ、トネ君とも距離を空けてラッセル。
交代しながらラッセルは続くのだが、ここでもカモシカのトレースが右に左に現れたり、木の芽が全部食われてたり。
ローカルのカモシカ様の痕跡があちらこちらに残されている。

一応林道

と、対岸を見ると、今度は殆ど断崖絶壁に1頭クライミング系のカモシカ様のお姿が。
イヤー、ロープも使わずよくやるわ、あの人。

ちゃんとビーコン付けてっかー？

最初のうちはお喋りなどしつつスノーハイクを楽しむ(フリをする)我々であったが、デブリ地帯を通過するあたりから、口数が少なくなるのは仕方のないことであろう。
あとはひたすら黙々と膝からモモ、ところにより腰のラッセルは続く。

イヤな感じっす。

いずれにしても、お得感は否が応にも高まろうというもんだ。
赤プレイが参加料1万円。都合カモシカ5匹で、1匹2000円かぁ、などとクダラン計算をしてたりするうちにやっと駐車場に到着。

時計を見れば既に4時半。
んーと、登りが1時間半、帰りが3時間半。都合5時間のモモラッセルかよぉ。
帰り道でもトネ君が
「いやぁー、ガイドやってても、年に１回あるかないかのラッセルですねぇ」
と感心するほどのモモパウてんこ盛りツァーはこうして無事終了したのであった。

昨夜は夜行列車つう事もあり、帰りに寄った温泉でも居眠りこいて危うく溺れそうになる始末。
当然帰途はあっという間に気絶するのは常道であるが、混濁する意識の中でワタシはふと気がついた。
「あ、ひょっとしてあのカモシカ達、ワシラのことを見物しに集まってたのねぇ」