ワタシは自他共に認める「日焼けマニア」であった。
ワタシに対するマチの人々の表現は「うんちゃらかんちゃらで（ここはその人が感じるZZ像によって様々）.....一年中真っ黒な人」であるらしかった。

会社のおねーちゃんたちからは
「なんでいっつも黒いんですかー？サーフィンとかやってるんですかー？」とか聞かれて「まぁね」なんて答えてニヤニヤしたり、「俺のおバァちゃんハワイアンなんだよ」と煙に撒いたりする。

もちろん、そんなナンパな喜びだけではなく、実利もかねているわけで、ワシとしては、いつ何時、風邪をひいたり、親戚が死んだり、腰の調子が悪くなったりして会社を休まねばならん事態に遭遇するかわからない運命にあり、そんな翌日怪しまれない為には常に日焼けしておく必要があったのである。
いわば危機管理の一環であるといえよう。
「ZZさん 顔色悪いですよ、熱大丈夫ですか」
なんてね。灼けてるだけだよぉ。

さて、確かに２０〜３０歳台のワシの日焼けに対する執念たるや凄まじく、まだ肌寒い4月から休みの日は、お日さまが顔を出すやイソイソと海岸に繰り出し、上半身裸になって下地を作りはじめ、5月の連休（一年中で一番晴れて紫外線の強い時期だ）には、ガッツリA面（死語）を仕上げるのであった。

これはM先輩の影響も大きく、お互い切磋琢磨しあって日焼けの道に励んでいたものである。
曇りの日にはもちろん（曇りでも紫外線は降り注いでるんですよ）、梅雨時に天気が崩れはじめ、霧雨のようになってきても震えながら海岸でがんばってたりしていた。
我ながらアホ臭くなって、帰ろうとすると、遠くにバスタオルに包まったM先輩がいたりしたものである。

そして、待ちに待った夏。
歯を食いしばり、ダラダラ滝のように汗を流しながら体の隅々までメラニン色素を沈澱せんと、自分なりにあみ出した様々な日焼け様のポーズで、誰に見せるわけでもないうちモモだのまで焼く。
お盆休みが近くなると、通勤電車の中にもほお骨のあたりを赤くしたサラリーマンなぞが見かけられるが、「へっ、シロートめ」とせせら笑う自分がいたりする。
あるいは逗子の駅で電車待ちの列に、春のうちから真っ黒に灼けているリーマンを見つけてシンパシーを感じる。

秋風が吹き始めても、修行は続く。
11月近くなっても、無風で天気の良い午後は絶好の日焼け＆昼寝日和。涼しげな秋風に吹かれながら海岸で昼寝するのは、羽化登仙の気持ち良さであった。
そしてパウダーシーズンが始まり、パンダ焼け防止にいそしんだわけである。

そんな我々であったから、 例の「コギャル・ガングロ」ブームの頃は非常に不快であった。我々本格派が「天然」にコダワルのに対し、連中は「サロン」で人工的にメラニン色素を沈澱させている。
もちろん我々とて、下地作成期においてセルフタンニングローション系のものを使うことはあったが、それはあくまで「天然物」を美しく仕上げる為の補助的なものである。それを近頃の若いやつときた日には...などとご隠居のように嘆いてみせたりしていた。
おまけに周囲からも「いい歳こいてガングロ」的な視線を感じざるを得ないわけで、我々正統派日焼けマニアには苦難の時代であった、といってもよかろう。
ガングロから「美白」に連中の流行が移ったのは我々にとって吉報であった。

むろんマニアであるからして、日焼けグッズの選定にも怠りはない。
オイル、ローション系からアフタータンニングローションなども、コパトーンとハワイアントロピック程度しかなかった頃から、情報の収拾に怠りなかった。
もちろん、ビーチベッド（チェアー）からビーチタオル、飲み物用のクーラー、グループ用のシェード（これはモスのウィングタープが活躍した）等の小物にもこだわりまくったのだった。

紫外線の健康に対する悪影響を指摘されても、我々日焼けマニアの信念はゆるがない。
撃ちてし止まん。自分の信ずるのもの に殉じて死することこそ男の本懐ではないか。
「皮膚癌で死ねれば本望ですっ！」
これが我々の合い言葉であった。

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さて、冒頭「あった」と書いた事からもわかるとおり、現在ワタシはすでに日焼けマニアではなく、むしろ日焼けを疎う傾向すら最近はみられる。

だって、お肌が...。

20年以上に渡って紫外線に晒されてきた我が二の腕から胸そして背中はソバカスとシミだらけ。特に肘から手首までの皮膚のハリはまったくなく、波乗りの長そでタッパー着たりして、それがよじれちゃってたりすると、脱いだあと1時間くらいそのヨレのあとが残ってたりするのである。
若いときゃそんなことなかったよなぁ。

そして、この島に来てから日焼けに対する情熱を完全に奪われる事態に見舞われたのである。
それはナニか。

顔が黒いとみるや、日本人のリーマンどもがすり寄ってきて「今度一緒に回りましょう」と囁くのである。
バーロー、てめぇらゴルフオヤジと一緒にされてたまるかっつーの。
おまけに「 自分はたしなみませんので」と答えると、やれなんで色が黒いんだ、だのいろいろホジクリかえされて、挙げ句の果てにゴルフやらないなんて変わってると変人扱いされる始末である。

つうわけで、今では特に顔の日焼け対策に余念のないワタシではあるが、かつての日焼けマニア時代については全く後悔していない。
この島から日本に帰った暁には、自然な天然物の日焼け道の確立に邁進したいとすら思う。

我がメラニン色素に悔いなし。
そのように思える今日この頃である。

2003.9